
友人の結婚式に行ってきた。
私はその日、美容院で”ポンパドール”という前髪をふんわり後ろで固定し額をオープンにした髪型にしてもらった。急激に天気が悪くなり強風と湿気MAXの世界が外に広がっているとも知らずに。
会場に着き、ポンパドールを控えめなリーゼントと進化させた私は友人との久々の再会を喜んだ。
「なんか、雰囲気強そうになったね!」と言われた。
コロナ禍での披露宴ということで出席者は全員マスク着用、テーブルにはパーテーション。
このパーテーションが本当に分厚く立派なもので、左右の友人の声が全く聞こえない。
隣の席のマミが「たのしみだね!」と笑いかけてくる。
パーテーションだけでなく、ざわつきや会場のBGMもあって余計聞き取れない。
私は耳に手を近づけ聞こえない仕草をし「なにって?」と首をかしげる。
マミはもう一度ゆっくり大きく「 た の し み だ ね ! 」と言った。
「 な に ?」
「 も う い っ か い お ね が い ! 」
耳に手を当てるジェスチャーと、大きくゆっくりな会話があちこちで繰り広げられていた。
老人クラブだ。
着席してすぐホテルスタッフがオーダーを取りに来た。
スタッフは私の対角線上でマスクをしたまま何か話している。
私は一言も聞き取れなかったが、
友人がスタッフに向かって「△※$ジューs」と頼んだのが聞こえて
(ああ、ドリンクの注文か)、と理解した。
ドリンクのメニューをみてたまたま目についたクランベリージュースに決めた。
「クランベリージュースをお願いします」
「#※△$◎@&#※△$◎@& ?」
スタッフが申し訳なさそうに何か聞き返してくる。
私の注文が聞こえなかったのだろう。
さっきより大きな声で「クランベリージュースください」と言った。
スタッフは「?」という顔をする。
「クランベリージュースです!!」
こんなにクランベリージュースと連呼したのは生まれて始めてだ。
見かねたマミが私に何か言っている。
もう飲み物なんてお茶でも水でもなんでもよくなってきたが、ここまできたら引けない。
「クランベリージュースって伝えて!」
私はマミにも言った。するとマミは両手で×のジェスチャーをしてる。
そしてドリンクメニュー表から「オレンジジュース」「ウーロン茶」「(ノンアル)ワイン」
を指さして「最初の一杯はこの中から!」と真横に座る私にラインを送ってきた。
恥ずかしいことをしてしまった。
飲み物なんてなんでもよかったのに。
そう、スタッフに私の声は届いていたのだ。
「 #※△$◎@&#※△$◎@& (乾杯のドリンクはメニュー表の上から3つの中でお選びください)」
「クランベリージュースをください」
「 #※△$◎@&#※△$◎@& (申し訳ありませんが、そちらのドリンクはファーストドリンクの後からお選びいただけますか)?」
「クランベリージュースをください」
「…?」
「クランベリージュースを寄こせええええ」
クランベリージュースを最初に飲みたいという意思を曲げないリーゼントBBA。
スタッフのお兄さんごめんな…
怖かったろう…
ごめんな。
その時、新郎側のテーブルから大きなギャッハッハっという場違いな笑い声が聞こえてきた。
続く。

参加してます。
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